第一話 幻想郷の巫女と十五冊の魅力 前編

   店内には外の世界の品も多い。幻想郷は外の世界で言う明治時代に隔離されたが、
  その後の時代の品も多数ある。ほとんどが用途不明の品だった。

  「うーん、外の魔法……。それってどんな魔法なんだ?香霖。」
  「まだ読んでいる途中なのだが……、コンピューターといって、計算式を使い、命令通り使役
  できるものらしい。これは言うまでもなく式神のことだよ。まぁ、その式が何の力を利用して
  いるかはよくわからないんだが。」

   僕は思う、15が力を持つのは当たり前じゃないか。古くからこの国では15は完全を意味して
  いた。十五夜を満月と呼ぶのも同じ理由だ。コンピューターとは東洋の思想と月の魔力を利用
  した式神なのだろう。


 第一話 幻想郷の巫女と十五冊の魅力 後編

  彼女は人の話を聞かないし物の価値という概念も持っていない。恐らく彼女にとってはお金の価
  値も紙や金属以外の何ものでもないのだろう。

   それは本当だ。霊夢は店の物を持っていく、服や道具作成の依頼もする、お払い棒も僕が用意
  したものだ。

  だが僕は、荒っぽいことはできないたちなのだ。それでよく生きていられるね、と彼女たちは言
  うが、僕はそれが普通だと思っているし、彼女たちの「何倍も」永く生きている。


 第二話 幻想の鳥

   幻想郷の人里から離れた魔法の森、その森のすぐ近くに僕の店「香霖堂」はある。つまり人
  間の住む所と魔物のそれの中間の場所だ。この場所なら人間相手にも妖怪相手にも商売ができ
  るかと考えていたが、実際はどちらからも「客」が来ることはほとんどなかった。まぁ賑やか
  なのが来ることはあるのだが……。

   幻想郷は文字通り幻想の生き物が棲む。いつの間にか外の世界の人間は、「幻想の生き物」と
  はただの「空想の生き物」のことと刷り込まされている。だがもちろん、幻想の生き物と空想の
  生き物はまったくの別物だ。空想の生き物とは、ただの妄想と復号失敗と勘違いの別名だ。それ
  に対し、幻想の生き物とは幻想郷にしか居ない生き物の略である。いうまでもなく、僕も魔理沙
  も幻想の生き物である。

  想像を根拠にした想像はただの空想だ。
  想像とは、空想、妄想、予想、仮想、幻想、の順でランクが付けられている。

   博麗神社は幻想郷の外れにある。外れといっても場所的にというだけではない。外の世界と幻
  想郷の境目にあるのだ。そのため、博麗神社は完全な「幻想の場所」ではない。


 第三話 完全で瀟洒なティータイム 前編

  最近は、妖怪も高級志向になってきたのか、屍肉を喰らう者が減ってきたみたいである。

   幻想郷では紅茶や珈琲といった嗜好品はメジャーである。異国の文化を持ち込む妖怪や、自
  然と流れ着いた道具や本などによって定着していった。幻想郷は空間は閉鎖的でも、精神は国
  際的なのだ。

  「でも、神様の居ない神社よりはご利益ありそうですわ。ねぇお嬢様。」
  「神様不在っていうなー!」
   博麗神社の由来を知っているのはどうやら僕だけのようだ。ここは霊夢の名誉挽回のためにも
  教えてやろうかと思ったが……どうでもいいと却下されてしまった。寂しい。


 第三話 完全で瀟洒なティータイム 後編

  その辺が幻想郷の彼女たち独特の洒落なのだろう。深く考えると疲れる。
  だから、僕は「理解できない事は気にしない」と考えることにしているのだ。

  レミリアの方はというと、蝙蝠風の羽をピンと伸ばしている。あれは緊張なのか驚きなのか
  よくわからないが……。

  「さぁどうかしら。本当の手品というものには、じつは、種も仕掛けもないものですよ」

  魔理沙の口癖「普通だぜ」から始まる説明によると、どうやら咲夜にはそういう能力がある
  らしい。


 第四話 霖雨の火炉 前編

   薄暗い道なき道。服がいつもの何倍も重く感じるのは、さすがにこの霧雨のせいか。
  陽の光も、降り注ぐ雨も、この森の葉はすべてを散らしてしまう。この森では晴れだろうが雨だ
  ろうがあまり変わらない。それどころか昼だろうが夜だろうが……、私はこの境界のなさが居心
  地が良くて大好きなのだ。

   おそらく私の実家に対してだと思うが、あいつは私に遠慮するのだ。それもそのはず、あいつ
  は私が生まれる前は霧雨家で修行していたのである。結局、うちの取り扱う品と人間の客相手で
  は、自分の『能力』が活かせないと言って独立したらしい。

   この『ミニ八卦炉』、魔理沙が家を飛び出した時に僕が作成してやったマジックアイテムだ。
  小さいが異常な程の火力を持つ。山一つくらいならこれ一つで焼き払える。暖房にも実験にも戦
  闘にも何にでも使えるだろう。

   緋々色金は、確かに錆びることのない金属である。どんな環境下でも材質が変化することが
  ほとんどないから、これを使えば最高のマジックアイテムができるだろう。


 第四話 霖雨の火炉 後編

   魔理沙の性格はわかっている、小さい時からずっと見てきたからな。こいつは物が捨てられ
  ない奴なんだ。集めた物は整頓も行われずただ膨れていくばかりで……、あれでは物の価値
  を平坦化させるばかりである。今回の条件も散々渋るだろうが、内心では即決しているはずだ。
  整理できるチャンスでもあり、ミニ八卦炉自体もなければ生活できないらしいからな。

   魔理沙が鉄くずを抱えてやってきた。しかも4日かかると言ったのに3日で来た。まぁそれもい
  つものことだ。だから僕はいつも1日多く言う。

  「どうせ私は集めることだけが目的だ。使えるかどうかなんてのは二の次だよ。」

   僕が魔理沙に頭の上がらない理由。それはいつも、蒐集癖のある魔理沙が集めるゴミを“不
  当に安い条件”で僕が手に入れているからに過ぎない。

  魔理沙は何にも変わらない。いまだ集めるだけだ。これだけ変わらない人間も珍しいと思う。

   鉄くずの中から一振りの古びた剣を取り出した。魔理沙が緋々色金を知っていた訳がない。
  なぜなら、この剣は緋々色金でできているのだ。魔理沙はずっと昔から緋々色金で出来た剣を持
  っていたのだ。
   この剣、名前は「草薙の剣」という。恐ろしく希少な品だ。何しろ、外の世界を変えてしまう
  程の品である。


 第五話 夏の梅霖堂 前編

  「梅雨になろうって頃まで雪が降っていたことがあったじゃないか。あれを解決したのは霊夢な
  んだろう?」

   霊夢はちょっと楽しそうだ。誰がどう見ても大変そうには見えない。困っているから解決する
  というよりは、何かおかしなことに首を突っ込むのが好きという風にしか見えない。


 第五話 夏の梅霖堂 後編

  あの剣の本当の名は名前は草薙の剣、別名天叢雲剣なのだ。天下を取る程度の力を持つ、いや、
  それ以上の力もある剣だ。

  「ん? いやなに、梅霖(ばいりん)の妖精が店の屋根裏に住み着いていただけだったわ。
    (中略)
  「貴方の店、いつも黴が生えるくらいに汚くしているから、居心地がよくてうっかり住み着いて
  いたみたいね。梅雨は黴雨ともいって、黴を好むのよ。


第一話(通算第十話) 無縁塚の彼岸花

   なぜ、人間の数が少ないはずの幻想郷に、このような無縁塚があるのかというと、
  そこには現在の妖怪と人間のバランスが影響している。妖怪を完全に退治する人間
  もいなくなったし、妖怪も幻想郷の人間を襲うことはほとんどなくなった。人間の数も
  妖怪の数もこれ以上増えては困るし、減ってもまた、困るのである。
    (中略)
   無縁仏も纏めて火葬し、遺骨もそのままここ無縁塚に埋葬される。僕がなぜここにいるのか
  というと、もちろん、無縁仏を弔うためである。決して、外から来た無縁仏と一緒に落ちている
  「世にも珍しい」外の道具を拾うためため、ではない。
   そう、幻想郷に縁者のいない無縁仏のほとんどは、外の人間である。ここは冥界との壁が
  薄くなっている場所であり、その影響もあってか、外の世界とも近い場所でもある。

   ここで、幻想郷を囲む結界が影響するものは何かを考え直すことにした。結界が影響を
  及ぼすもの、それは人の「思い」である。物質の壁が「肉体を通さない壁」だとしたら、
  結界は「人の思いを通さない壁」だ。結界を越えるということ、いわゆる神隠しは、
  特殊な精神状態か意識が朦朧としている時に起こり、必ず全身ごと飛び越える。

   「私の知り合いで、平気で体の一部だけ結界を渡る奴がいるんだけど……って、なるほど
  あいつは人間じゃなかったわね。」


第二話(通算第十一話) 紫色を超える光

   魔理沙は寒さに弱い。寒さの厳しい冬は、いつもの「キレ味」も三分の一程度になってしまう。

  「香霖に良いことを教えてあげようか?香霖以外にも外の品を大量に持っている奴が、私の
  知り合いにいる。この間も『この道具は、遠くにいる者と会話ができますわ』とか言って
  自分の式神と話していたり……本当かどうか疑わしかったがな。そいつなら燃料ぐらい
  持っていると思うぜ」

   僕は直感でわかった、今──僕は外の世界にいる。外の道具に囲まれ、この外の道具に
  想いを馳せることで、僕の想いは結界を飛び越えたのだ。

   「あら駄目よ、こんなところに来ちゃ。貴方はこっちに来てはいけないの。貴方は人間じゃあ
  ないんだから」

  「電気かしら?灯油かしら?それともニトロかしら?まぁ、何にしたってお安い御用よ。
  そのくらい無尽蔵に持ってるし……困った時はお互い様、だもの」

   「……貴方の店、若干流行遅れの品ばかりね。最近の流行はね、携帯できるものが多いのよ。
  携帯して遠くの人と話せたり、他人の記憶を携帯して小さなスクリーンに映し出したり……」


第三話(通算第十二話) 幽し光、窓の雪

   死者の声を聴くというと、イタコという職業を思い出す。ただ、ほとんどの人間はイタコの能力
  を誤解している。イタコは死者の声を聴いているのではない。口寄せを依頼した人間から
  発する無意識を、イタコが言葉にして伝えるのだ。
    (中略)
   巫女はイタコと同じ能力を持つと思われるが、少し違うところがある。巫女は、神の言葉を
  口にする。あらゆるものに神が宿るので、道具であろうと声を聞くこともできる。ただ、
  その声は一方通行なのだ。いわば神の独り言をそのまま言葉にするようなものだ。

   「人魂灯は、無数の幽霊を誘導するのに使うもので、元々冥界にしかない道具です。
  この道具の光は、どんなに離れていようと、障害物があろうと、幽霊には見ることができる
  のです。」

   少女は、冥界にある大きなお屋敷で住み込みで働いているらしい。人魂灯は、そのお屋敷の
  お嬢様から預かった大切な道具だった。だが、出先でうっかり落としてしまったらしい。
    (中略)
   「結局、幽々子様にバレてしまって……、散々怒られたのです。」


第四話(通算第十三話) 無々色の桜

   桜の花は、人を惑わして自らの下に集めることだけを考えて咲いている。何十年も何百年
  もの間、集めることだけを考えていたら、例え植物とはいえ不思議な力を持つようになるだろう。
   店の裏の桜は、自らを白くすることによって一目を惹き、霊夢の紅を呼ぶことで、紅白どころか
  虹の七色を手に入れようと考えたのだ。
   この桜の策略に気が付いているのは恐らく僕だけである。こうやって人間を操るうちに段々と
  妖怪と化していくのだろう。人間に害をなすような魔力を持ってしまったら、人の手に負えない
  代物になる。


第五話(通算第十四話) 名前の無い石

   元来この世のあらゆる物には名前は付いていない。この世は様々な物すべてが混ざった
  混沌の世界だった。だが、太古の神々がこの世の物一つ一つに名前を付けてまわり、
  今の世の様に秩序の取れた世界が生まれた。物に名前が付くとそこに境界が生まれ
  初めて一つの物として認識される。謂わばその命名の力は無から物体を生み出す創造の力
  であり、まさしく神の力に等しい。そして、その強い力故、物は名前を付けられた事を
  覚えている。だから僕はその名前を視ることができるのである。

   「化石というのは、「石となった骨の元の動物に名前を付けた石」の事なんだ。生きていた時
  の動物に名前が付いて初めて化石となるんだよ。それまでは名前が無いので石と区別が
  無いに等しい」
  「だったら、この石の元の動物の名前を霖之助さんに聞けば、これは化石になるんでしょう?」
  「確かにそう言う事になるが……実際にはそれも無理な話だ。この動物はまだ神々が名前を
  付ける以前の生き物だから、名前の無い動物なんだよ。こればっかりは僕の能力でも
  知ることの出来ない物なんだ」

   「この骨の持ち主は元々普通の大きさだった。今僕達が知っている大きさの骨だったんだ。
  その動物が死んだ後、肉は土に還り、残された骨は次第に大きく成り続けた。」


第六話(通算第十五話) 働かない式神

   このコンピュータのように複雑な式神は、外の技術なくしては創れない。このコンピュータに
  限らず、食器から新聞に使うような紙切れまで、殆どの道具は外の世界の技術の賜物だ。
  妖怪が日常食べる人間も人間の心も、その餌食となるものは外の世界の人間である。
  閉鎖空間である幻想郷は、外の恩恵により保っているようなものである。

   「(略)通常我々のいう式神とは、『パターンを創ることで心を道具に変えるもの』だ。つまり
  幻想が実体を生むものなんだ」
    (中略)
   「だが、このコンピュータは自ら動く心を持っているようには見えない。最初から道具なんだよ。
  僕はこれを、『パターンを創ることで道具を心に変えるもの』だと想像する。つまり実体が
  幻想を生むものということだ」

   「人形は手を動かすのに、手に繋がれた紐を引っ張る。歩いているように見せるには、手足
  の紐を交互に動かす。」
    (中略)
   「式神は命令通り動くことで、別の力を得るものなんだ。さっきの人形を例と比較して言うと、
  たとえば式神の右手を動かすためには右手を引っ張ったりはしない。手を挙げろ、と言う
  だけでいい」


第十六話 洛陽の紙価

   「ところで、何で急に新聞が増えたんだ? 全然知らなかったけど、新聞大会は毎年
  やってたんだって?だとしたら新聞大会だけが原因じゃないだろう?」
  「それは、紙の入手が容易になったことが一番の原因だな。ここのところ幻想郷の紙の
  価値が急激に下がっている。外の世界から紙が大量に舞い込んできたんだよ」
  「ふーん。幽霊の次は紙ねぇ。舞い込み放題ね」
  「コンピュータは、紙を使わないで情報を集める式神だ。それと紙の増加を併せて考えると、
  紙で情報を伝えることはすでに幻想の域に達していると言えるだろう。もうすでに、
  外の世界では本を書いたりすること自体が幻想なのかもしれない。」

   幻想郷には歴史らしい歴史がない。それは毎日が平和だからでも、異変がすぐに解決する
  からでもない。もっと単純な理由である。
  それは、妖怪の寿命が永すぎるからだ。歴史となる事件でも、当事者が生きている以上
  都合のいいように情報が変化し続け、その曖昧な情報の上に立っている事実が
  いつまでたっても定まらない。
    (中略)
  歴史になるには客観性が一番大事なのだが、当事者が生存し続けるとなかなか主観から
  離れられないから、幻想郷には歴史がないのだ。


第十七話 月と河童

   「あら、なんてカラフルな亀の甲羅かしら。これは確かに縁起が良さそうじゃない」
  「赤と青、白と黒、そして中央は黄色の五色の甲羅。これほど縁起の良いものはなかなか
  見あたらないと思うよ」
  「でも……この甲羅、亀にしては不自然ね。大きすぎるし、それに何だかのっぺりとしているというか」
  「そう、これは亀の甲羅じゃない、『河童の五色甲羅(ごしきこうら)』さ」

   「河童なんて山にいくらでも棲んでいるよ。君たちはあまり山に足を踏み入れないだろうけど、
  山にはさまざまな妖怪が棲んでいるよ。」

   河童の正体である 大亀(カハカメ)、それは海ではなく河や沼に棲み、そしてとんでもなく大きくなる亀。
  すなわち、鼈(スッポン)である。その鼈が長い間生き続け、妖力を得たものが河童である。


第十八話 龍の写真機

   「(略)そこには写真の様に景色が映し出されるだろう。つまり、景色というのは生き物の目
  が無くても鏡に映っている訳だ。後は映っている瞬間を保存できればよい。写真機はその
  瞬間を保存する能力を持っているんだ。実際の景色は減るのでも二つになるのでもなく、
  映った鏡と瞬間が切り取られて減ると言う訳さ」

   三稜鏡とは、透明と三角形だけで龍の住む所を表現しているのである。
  「虹とは、龍の通った跡だと言う事は言うまでもない。だから、三稜鏡に何か──この場合は
  光を通すと、虹が作り出される訳だ」

   「まぁ結論を先に言うと、龍は完全な三の世界から、森羅万象を創造するために虹の七色
  を残すんだ」


第十九話 奇跡の蝉

   「……素数、つまり割り切れない周期でしか発生しないと言う事は、それぞれの蝉が同時に
  大量発生する機会が非常に少ないと言う事だ。13年の蝉と、17年の蝉が同時に大量発生
  する周期は……221年に一度だけしかない。そうする事で、同時に大量発生してお互いが
  不利益になる年を極力減らしているのだろう。(略)」
  「なるほど、何となく判ったぜ。蝉って頭が良いな」
  「蝉の頭が良い訳ではない。先も言ったように、蝉は地獄から送られてくる魂の容れ物だと
  言われている。つまり、地獄の閻魔様が作ったシステムだろう。頭が良いのは当然だ」


第二十話 神の美禄

   「いや、お酒の作り方を熟知する事は、巫女として当然であり必要な事だよ。何故なら、
  巫女は神と交信する為にお酒を使うんだ。昔は神社でお酒を造っていて、巫女の仕事
  の一つだったからね。今はどうなのか知らないけど……」

   そんな神の美禄であるお酒は、当然呑む人を選ぶ。お酒の神である奇しの神に敬意を払う
  としたら、お酒は酔わなければいけない。大いに呑んで大いに酔う事が大切なのだ。


第二十一話 妖怪の見た宇宙

   思えば、第一回の流星祈願会から、魔理沙は星に因んだ魔法を使うようになった気がする。
  今では魔法の流星と言えば、魔理沙の一番のお得意技だ。さらに、毎年のように流星群
  の日付を訊きに来ては、一人でも流星を見ているらしい。

   この渾天儀に、その妖怪の名前がかいてあったのだ。しかも、"製作者の名前"として
  書かれていたのだ。
   「どれどれ? おおそこの文字なら何となく読めるぜ。『著作 八雲……紫』?げげ、
  渾天儀って、もしかしてあいつが作った道具だったのか?」


第二十二話 流行する神

   霊夢曰く、病気が伝染る原因とは、その病気を持っている"崇り神が猛威をふるっている事"
  である。その崇り神を見つけ出して封印し、崇り神を封印した事を病気の人に見せて
  信じて貰う事で病気が治るのだと言う。

   迷いの竹林に現われた医者はそんな神頼みの治療ではなく、もっと高度な治療を施すと言う。
  見た事もない器具を使い、体の中を写真に写したり、痛みもなく患部を切り落としたり、
  時には駄目になった体の一部を正常な物と取り替えたりしてしまうらしい。


第二十三話 うるおいの月

   「『外の世界は急激に冬が短くなってぇ、今は三月中に桜が咲いて散ってしまうのよぉ』
  って言ってた」
   霊夢は妙にゆったりした口調で説明した。紫の真似のつもりだろうが……全く似ていなかった。
  アレンジされ過ぎて誰なのか判らない。
    (略)
   「『今年は二回も桜を楽しめた』ってさ。外の世界の桜と幻想郷の夜桜と」

   「妖怪の太陰暦、妖怪太陰暦。月の満ち欠けだけでなく、月の光の色と縁の周期を
  一月(ひとつき)とした暦で、人間が考案した暦より遥かに自然現象を読み取る事が
  出来る暦だそうだ。
    (略)
   だが、この暦には人間が使うには大きな問題がある。何故なら、一日の長さが今の一日
  じゃない。というか、一日という単位が存在しない。最小単位が一月なんだ。人間の一日
  に合わせると、新月は夜中で満月は昼間みたいな感覚だな。それに暦が一周するのは
  六十年という長い期間だし……」


第二十四話 神社の御利益

   神社の存在は人気の有無という全て人間の都合で決まっている訳だが、神様にとっても
  全く無意味ではない。
  というのも、神様の力量は人間の信仰心の量で決まるのである。

   「ところで、博麗神社の神様ってなんだっけ? 悪霊……は違うよな」
  「余り記録が残っていないのよね。昔に悪霊に取り憑かれた事はあったけど……」

   「結論を言うと御利益というのは、荒(あら)の性格を鎮め、和(にぎ)の性格に感謝する事で
  神様の力を増す事を言うのさ」
  「ふーん。よくみんな神頼みって言うから神様が一人一人の願い事を叶えて廻るのかと
  思ったけど……そうじゃなかったのね。本当は、神様の力が増す事自体が御利益に
  繋がっていたと言う訳かぁ」